『反らない鯣に、意味はあるのでしょうか』
最近にわかに流行っているレジン素材ですがその元凶といえばクラフトエスの参入でしょうか。
いまやNガレージキットの主流の座に迫りつつあるようですが、材質の特性上から事後変型の
影響が甚大であることは否定出来ずその欠点故敬遠するモデラーも少なからず存在する様です。
しかし、今年になってとあるメーカーが革命的ともとれるキャッチコピーで鉄道模型界に参入
したことである樹脂が脚光を浴びています。
ここではこの新素材について化学的見地から考察を試みることとします。
「奇跡の素材?」
(RMM61号特集記事より部分引用)
●●●●製品に使用している樹脂について
●●●●の完成品やキットなどでは主に熱硬化
性プラスチックス(ポリウレタン樹脂)成型品を
使用しています。いままでは漠然と「レジン」の
(略)
いっぽう、樹脂注型模型に使用される最近の主
な材料は、
・無溶剤型ポリウレタン樹脂
(●●●●使用の無溶剤タイプ)
・溶剤希釈型ポリウレタン樹脂
(いわゆる「レジン」)
・ポリストーンに代表される、炭酸カルシウムや
大理石の粉末等を混入するコールドキャストの
ようなポリエステル樹脂。
などに大別されますが、これらの樹脂は総称して
熱硬化性プラスチックスと呼ばれています。
(略)
真空注型をすると内部気泡は皆無となり、緻密
な成型品に仕上がりますのでABS樹脂に近いすぐ
れた物理特性を持ち(以下略)
ここで省略した部分は本考察では不要と思われる箇所であります。
この紹介文を読むとレジン素材の奇跡とも思えますね。
さて、ここで「無溶剤型ポリウレタン樹脂」といわれている素材ですが
この記事の後は「ABS“相当”樹脂」と呼ばれている様です。
ではABS“相当”とは一体なにを挿すのでしょうか?
「ABS“相当”っていわれたらなんてこたえればいいの、またはABS“相当”ってなに?」
前述の紹介文によれば「ABS樹脂に近いすぐれた物理特性を持ち」とあります。
これは直接的には真空注型にかかわる表現ですが、「ABS“相当”樹脂」と呼称されている事
実を考慮すれば「無溶剤型ポリウレタン樹脂」なる樹脂を用いて真空注型を行った成型品は「A
BSに近い優れた物性を有する」ことを示唆していることは自明であります。
つまり、「ABS“相当”樹脂」なる樹脂はABS樹脂に近似した挙動を示すわけです。
「そもそもABSとは?」
いわゆる「4大汎用樹脂」と称されるプラスチックの基本骨格は全てビニルモノマーで構成され
ており、その重合方法はラジカル付加重合であり、ガラス転移温度(材料として使える限界温度)
は100度以下となる。
このうちのポリスチレン(PS)樹脂のアクリロニトリル・ブタジエンゴム共重合体をABSと
称し、これはPSの耐衝撃・耐薬品性を向上させた物である。
下記はPSの反応式である。
(CH2=CH)×n → -(CH2−CH)n-
| |
Ph Ph
Ph:フェニル基(C6H5-)
「で、ポリウレタンってなに?」
先述では無溶剤型ポリウレタン樹脂の物性はABSに近似しているとの仮定が導かれましたが
実際のポリウレタン樹脂とはいかなる物か見てみよう。
ポリウレタン樹脂とは、ジイソシアナートとヘキサメチレンジオールの重付加反応体である。
{O=C=N-(CH2)6-N=C=O}×6 + {HO-(CH2)6-OH}×6
→O=C=N-{-(CH2)6-NH-CO-O-(CH2)6-}n-OH
ここで参照した文献では物性値が記載されていなかったため今後の調査でフォローするものと
する。
なおこの反応は加熱せずともモノマーの混合により開始・進行する。
「ABS相当なポリウレタンなんて、なかったんだ」
一般的にいって「似たもの」は同じような挙動を示す。
ここでいう「似たもの」とは似た構造を持つ化合物を差す。
ABSとポリウレタンでは構造が全く別個のものであることは理解されたものとして考察を進
めたい。
本来ここで問題とすべき点はただ一つ、事後収縮性の有無だがこれは後述する。
溶媒に対する可溶性、耐熱性などは明らかに異なる。
これについての実証は手許の材料で試されれば明白だと思うので省略させて頂くが、この事実
から導出される結論はひとつ、つまりは
「ABS相当とはPS類似であってもポリウレタンではない」
ということである。
「熱硬化の真実」
冒頭の紹介文ではポリウレタンは熱硬化性樹脂であるとの記述があるが重大な誤認である。
本来「熱硬化性樹脂」とはプレポリマーを加熱することで硬化させた樹脂の総称である。
つまり、最終的なポリマーの生成は加熱しないと反応が進行しないわけである。
さらにいえば熱可塑性樹脂として分類される樹脂の中でも架橋による三次元構造を取ることで
可塑できない「溶けない熱可塑性樹脂」も存在し、ポリウレタンはこの範疇に含まれる。
「起きないから、奇跡って言うんですよ。」
「無溶剤型ポリウレタン樹脂」は「ABS“相当”」ではないことは実証できた。
では肝心の事後収縮の可能性はいかな物であろうか?
先述の紹介文では「溶剤の揮発」による収縮のみを論じている。
しかしポリウレタンはいわゆる硬化後にも残存するモノマーの重合反応が進行する。
(一般プラホビー界では周知の事実であり、事後収縮防止の為冷蔵庫で硬化させるという話を
とあるモデラーから伺ったことがある。つまり低温条件で重合速度を落とす=硬化時間を稼
ぐことにより硬化後の残存モノマー数を減らすことが狙いである)
つまり無溶剤だろうが事後収縮は発生しうるのである。
「結論」
ABS“相当”なる樹脂は存在せず、なおかつその物性はポリウレタン類似でしかないことは
わかっていただけたことと思う。
「考察」
「ABS“相当”」なる虚構を作り上げた業界の本質とはいかなものか?
とあるメーカーが本考察の発表後に某電子掲示板にて次のような発言を行っている。
車体の素材は現在検討中です(発砲ポリウレタンかABS系素材)
この発言を見る限りだがこの発言者は素材についての知識がないと考えるのが妥当であろう。
「所見」
ABS“相当”だろうが何だろうが所詮レジンはレジンでしかない。
事後収縮率の微少化は徹底した行程管理によって始めて実現可能である。
(精度を出そうとすればムクの屋根ですらコストは2000円/毎になるらしい)
徹底した行程管理の結果は工業製品である事を考えれば鉄道模型でのレジン利用には自ずと限
界があるのではなかろうか
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